ベルクソンの「物質と記憶」を中心に、心脳問題について、過去にmixiで書いた文章を推敲し直して載せています。

テキストは、アンリ・ベルクソンの「物質と記憶」第2刷(ちくま文芸文庫版、合田 正人、松本 力訳)を使っています。『ベルクソン「物質と記憶」メモ』と記事のタイトルにあるものの引用文のページと行はこのテキストのものです。


2010年1月23日土曜日

ベルクソン 「物質と記憶」メモ その3 記憶と想起 その1 概要(mixi:2009年07月19日)


さて、前の記事にまとめて前置きを書いておいた。ここからは、記憶を詳細に研究することによってどうして物質と精神が結びつけられるのか、あるいは精神の本性とは何か、についてベルクソンの考察が展開されていくところを説明していくことになるだろう。

まず、この第二章では、ベルクソンは物質の運動という面から記憶というものに関して検証する。前回の「その0」で最後に書いた言い方をすれば、『精神生理学の方へと心理学を凌駕』する方について心理学の分野から生理学へとはみ出すことについてとなる。

これによって、まず、

「I - 過去は、二つの異なる形式で存続する。第一は運動の機構の中で、第二は独立した想起の中で」(テキスト p.101 2-3行目)

と、まず、記憶が大別して2種類に分かれると主張する。そして、前者を特に、「純粋想起」、後者を「イマージュ想起」と言う呼び方もする。後者については、詳しくは「第三章 イマージュの残存について - 記憶と精神」において詳しく述べられることとなるが、簡単にはp.116 4行目 - p.117 4行目までにまとめられている。

(2010年1月23日 筆者注:第三章における図2(p.191)においては、知覚と純粋想起を対極においてその中間にイマージュ想起をおいている。一方でここでは運動性の機能(純粋想起)とイマージュ(想起)について対比させていることを混同しないように注意する必要がある)

(2012年1月2日 筆者注:上の段落について、一部表現を変更した。理由としては以下に述べる。まず、この第二章においては、記憶には『純粋想起』と『イマージュ想起』の2種類があることを臨床的な心理学の見地から説明を試みている。一方、第三章においては、その記憶の二つの形式をもとに、無意識の働きをより詳しく検証し、さらには、いかにわれわれが、さまざまな大脳生理学的、心理学的誤謬に陥りやすいかということを特大きな部分の裂いてに説明している。上の段落は、そのように考えれば、本来は書き換えられるべきであろうが、ブログ(あるいは当時の考え方の記録)として見た場合に、そのときの考え方を残すべきだと考え、しかし、内容の説明としてはより間違いの少ないような表現に書き改めることにした)

この記事は概要のみであるので、詳しい説明は後に回し、いまはここまでにする。

記憶を2種類にわけたあとは再認について詳しく述べられることとなる。

ベルクソン自身は

「II - 現在の対象の再認は、それが対象から生じるときには運動によって行われ、それが主体に由来するときには表象によって行われる」(テキスト p.101 10-11行目)

あるいは、p.118 14行目から始まる節「運動と想起」の最初では、

「II - 再認一般、イマージュ想起と運動について」

という言い方をしている。

ここからは、主に脳の損傷などによって起こる症状を検証することによって再認について考察していくこととなる。

たとえば、われわれが、記憶している街並みを以前に見たものと全く同一ではないのに同じだと断定できると言う不思議、あるいは、異なる人のしゃべる言葉を、癖や、しゃべり方は全く違っても理解できる不思議。これは、脳の一部が損傷していたりするとできない、ということが述べられている。

そして、最後に、イマージュ記憶が運動の機能へ置き換わっていく働き、あるいは注意とはなにかということが考察される。テキストでは

「III - 時間に沿って並べられた数々の想起から、空間内でのそれらの生まれつつある行動もしくは可能的な行動を描く諸運動へと、感じられないほど徐々に移行がなされる。脳の損傷はこれらの運動を傷つけることはできるが、これらの想起を損なうことはできない」 (p.102 13-15行目)

あるいは、p.131 13行目から始まる節「想起と運動」の冒頭では

「III - 想起から運動への漸進的な移行、再認と注意」

というように書かれている。

概要としては以上である。

補足としては、ベルクソンはこれらを三つの命題と呼び、第二章の最初の節『記憶の二つの形式』のはじめの三ページ(p.100?p.102)で、端的に示したあと最後に『残る課題は、経験がこれら三つの命題を実証しているのかどうかを知ることである』(p.102 最後の行)と述べている、ということを付け加えておく。


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